トム フォード ビューティ / ノワール・デ・ノワール オード パルファム スプレィ 口コミ

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doggyhonzawaさん
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4購入品

2017/5/5 00:39:15

いつも笑顔を絶やさない人には軽く警戒することにしている。そういう方は張り付けたような笑顔の下で、同じくらいの熱量の黒い闇を抱えていることがあるからだ。人の心には輝く光の面と暗く淀んだ闇の面が同時に存在する。どちらかに大きく傾いた姿しか周囲に見せていない方は、心のシーソーが常に傾いたままでどこかいびつだ。それを何とかしようと抑圧したりもがいたりして、逆に誰にも心を開けず孤独に苦しんでいることがよくある。

トム・フォードの心にも深い闇がある。それは輝かしい彼の活躍に比例して、より深まった孤独な闇だ。だから、彼が自身の心のバランスを整えるために提案するフレグランスにはノワール(黒)が多い。

ノワール・デ・ノワールは、黒をイメージさせる香料を意識的に用いたダークオリエンタル系のオードパルファムだ。トム・フォード自身が偏愛するパチュリやヴァニラをふんだんに使った香りで、2007年に発売された最初の12本のうちの1本。調香は大御所、ハリー・フレモントとジャック・キャバリエ。プライヴェートコレクションなので、基本的にはレイヤリングして楽しむための「素材」の一つであり、香水としては完成していない。ただ、単品としての使用も想定して多少バランスはとっているようだ。

では、実際の香りはどうかというと。

ノワール・デ・ノワールのトップは、強烈な苦みをもつ暗い香りが鼻を刺激してくる。あー、パチュリだと感じる複雑なオープニング。墨汁のようで、湿った土臭くて、わずかにゴムの匂いのような酸味やスモーキーさも感じられる香り。モス系の苦みやブラックトリュフのキノコっぽいコクも効いているように思う。だが、とかく苦みと暗さが際立っているので、明確な判別はできない。いずれにしても、ヨーロッパでは愛好者が多いものの日本人ウケしづらい系統の香りだと感じる。それでも、どこか透明感があってスッキリひんやりしているトップ。

3分もしないうちに、下からスパイシーな香りが出てくる。じわりとした痺れるような香りと清涼感。ほんのわずか正露丸のような生薬っぽい匂いが感じられる。このへんはサフランやクロッカスのシャープな香りだろうか。それを起点に、一本調子の香り立ちが多いこのコレクションにしては珍しく、低く沈鬱な薔薇の香りに変化しはじめる。ほの暗くてしっとりした薔薇だ。ブラックローズというクレジットを見るが、種類まではよく分からない。清涼感あるローズ香にパチュリの苦い墨汁をかけたようなイメージだ。ミドルはこの暗いローズとパチュリの黒い香りが、どこか危うい均衡を保ったまま展開していく。曖昧で複雑。退廃的でミステリアス。

そんな排他的でストイックなミドルが約30分〜1時間続く。短い。気が付くと飛んでいる。これがミドルなら、EDPとしてはとても物足りないと感じるだろう。だが、実際にはこのあとが長い。黒い香りが薄れると、いつの間にか淡いヴァニラの香りに変わっている。穏やかで主張が弱いヴァニラだが、これが2〜3時間ほどゆっくり続いていく。ラストは黒ではなく、はかなげなヴァニラが陽だまりのような白い光を感じさせる。さながら頑なになった心のひだが、そこだけピンスポで照らされたように。

ビターなカカオのような苦みがきいたパチュリやモスの香り、そこにダークなローズやシャープなフローラルが重なって展開する前半の黒い香りが約1時間ほど。その後、マイルドでクリーミーなヴァニラが静かにたゆたう白い香りが約2〜3時間続く展開。悪くないけれど、単品で使うならEDPとしては主張が弱く、物足りなく感じられるかもしれない。また、レイヤリングするにも、ウード・ウッドほどベース香っぽくないので、何を重ねたらよいか迷う中途半端な素材ではある。重ねるならネロリ・ポルトフィーノやマンダリーノ・ディ・アマルフィあたりの海系がおすすめだ。他にジョー・マローンのフルーティー系、アトリエ・コロンの爽やか長もちシトラスあたりも、明暗溶け合ってまろやかな雰囲気になっていい。

人を拒むかのような鬱蒼とした森。心に深い闇を抱えたまま、漆黒の森の奥へ歩みを進めると、不意に少し開けた秘密の場所を見い出す。それはわずかに日が差す、濃いモスグリーンの水をたたえた暗い沼。水面から突き出た恐竜の骨のような朽ち木の倒木。沼のほとりには、湿地特有の背丈の高い草や花の香りが移ろう。遠く鳥の声が幻聴のようにこだまし、見上げると、網目のように重なりあった黒い枝々が空を覆っている。そこは、常に霧が立ちこめる心の闇の弔い場。誰が手向けたのだろう、赤黒い薔薇の残骸が一輪、水面に揺れている。ひとすじの光がそこだけをはかなげに照らしている。

どこからか聞こえる哀歌の旋律。疲れた魂を安息に導く黒のレクイエム。

  • 暗い沼 by doggyhonzawaさん
  • ノワール・デ・ノワール by doggyhonzawaさん
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