トム フォード ビューティ / ネロリ・ポルトフィーノ オード パルファム スプレィ 口コミ

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doggyhonzawaさん
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4購入品

2015/6/18 01:36:05

その小さな港町は、イタリアの秘密の宝箱だ。緑の山々に縁取られた静かな入江。湾を囲むようにせり出した高台のヴィラからは、内海と同時に紺碧の地中海が見渡せる。港に面した通りに立ち並ぶ家々は、色とりどりのマッチ箱を立てたように鮮やかな外観を有し、湾に向けて緩やかな張り出しの弧を描いている。そして特筆すべきは、海からのアクセス以外、なかなか近づきにくい場所だということ。そのため、パパラッチと世間の喧噪を嫌うセレブ達が、クルーザーで訪れるお忍びの場所として知られるようになった。その名は、ポルトフィーノ。

トム・フォードの特別なフレグランスシリーズ、「プライベート・コレクション」。その中でも、最も人気ある香りの1つが、この町の名を冠したネロリ・ポルトフィーノだ。

ネロリ・ポルトフィーノのトップは、オーデ・コロンの始祖とも言える4711の開口を彷彿させる。さっぱりとしたレモンの香りが広がったかと思うと、一瞬でベルガモットの苦みと香ばしい酸味に変わる。そして、シャープなラベンダーのアウトラインに包まれて、甘く柔らかなオレンジ・フラワーの香りが広がり始める。

開始から5分でミドルに落ち着き、オレンジ・フラワーとグリーンなハーヴのミックスがふくよかさを増してくる印象。ただ、ネロリの精油を思わせる香りというわけではなく、精油の精製中に出るオレンジ・フラワー・ウォーターの穏やかな香りに近いように感じる。上品なバランスだと思うが、パルファンとしてとらえると、香り立ちが薄い印象は否めない。

やがてジャスミンの香りが少しずつ広がってきて、ラストはハーヴのグリーンと相まったまま減衰。トップ系の素材が多くクレジットされているせいか、ラストに際だった香りをあまり感じない。アンバー系がほんのり香るかなというやや甘いエンディング。

全体に、ラルチザンやルタンスから出ているフルール・ド・ランジェ(オレンジの花、の意)よりも、ネロリ香&ジャスミン香は弱く、生花や精油の香りを再現したという感じではない。むしろ、ライトなトワレ調。3〜4時間は緩やかに香るが、「質の良いネロリを惜しみなく使用した」という宣伝文句を見て購入するなら、そのギャップには苦笑する。必ず自分の肌にのせて香り立ちを確かめた方がいいと思う。本当にすごいネロリの精油は1mlで1万円程度するそうだが、そこまでの物でないにしても、ネロリっぽさがもう少し欲しかったなあという気はする。

とはいえ、ボトルデザインがとても美しく、地中海を思わせるアジュレー・ブルーという色と相まって、かなり所有欲がそそられるのは確か。ただ、肝心の香りが、3千円〜1万円程度でいくらでも似たような香りを見つけられる古典的なオーデ・コロンタイプなだけに、50mlで3万円近い値段には複雑な思いがする。香り立ちは優しいのに、値段は優しくない。まさか中身よりも、このボトルのデザイン代にコストがかかりすぎたのでは?そんな邪推さえしてしまう。

と、そこまで言って、はたと考える。まんざらジョークじゃないかもしれない。

そういえばポルトフィーノは、もともとは誰も話題にしないような、さびれた漁村だった。それが、一部のセレブにその美しさと秘匿性を見い出されたことで、富がそこに集中した。ミラノに行かなければないような高級ブランド店が軒をつらね、港に並ぶ家々が鮮やかな色に塗り直されて外観を整えたことで、観光客が押し寄せる人気スポットになった。

ネロリ・ポルトフィーノも同じだ。トム・フォードがプロデュースしたこの香水の中身は、100年以上前に作られたオーソドックスな香りのアレンジ版だ。それをトム・フォードの類まれなセンスと審美眼が、所有欲をそそるステータスシンボルなボトル、コレクション欲を刺激するレイヤーリングの提案などで、高級品に生まれ変わらせたのだ。

どちらも、もともとあった地味で美しいものに、新たな「付加価値」をつけたという点で共通している。そして、そのキーワードこそが、「セレブの贅沢なプライベートを味わう」ということなんだろう。

だとすれば、この香りを楽しむには、やはり、肩ひじを張らないシーン、自分自身がのびやかに過ごせる時間が似つかわしいと思う。夏の日の午後。コットンや麻などのラフ&カジュアルな服。お気に入りの雑誌とグラス。強い日差しを避けて、デッキチェアーで読書を楽しむ瞬間。木漏れ日の明滅に目を細め、海風を肌に感じながら聞く木々の葉ずれの音。そんな、自然の光や音と自分の境界があいまいになるようなひとときに、この柔らかな香りは、心と体をどこまでも開放していってくれるに違いない。

そんなひと夏のリゾートのラグジュアリーに。それは、誰にも譲らないとっておきのプライバシー。

  • ポルトフィーノ by doggyhonzawaさん
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