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悲しいことがあると、革の表紙を開いたりしない。紫の香りをそっと嗅ぐ。それは、しぼんだ風船のような心にそっと寄り添う、美しいシングルフローラル。アニック・グタールのラ・ヴィオレット。
ラ・ヴィオレットは、2001年に、調香師イザベル・ドワイヤンとカミーユ・グタールによって作られた。1999年に世を去った母、アニックが好きだった菫。母と共に過ごしたフランスのアベロンの別荘「ラ・ヴィオレット」。その庭に咲いていた小さな紫の花の香り。それは、カミーユが亡き母を偲び、母にもらったあふれんばかりの愛や思い出に対する感謝をこめた、ノスタルジックなフレグランス。
ラ・ヴィオレットをスプレーすると、淡く透き通ったうす紫のせつない香りが広がる。一瞬、バイオレットフィズの暗く秘めやかな雰囲気、そしてすぐ、わずかにローズの口紅っぽいワックス香が浮かび上がり、ピンクがかった紫に変化する。それでいて、とてもクールでシャープだ。バイオレットリーフのグリーン香が甘くなり過ぎないようエッジを引き締め、濃い紫の陰影を形作っている。
そしてそのまま、スミレの紫、ローズの赤、バイオレットリーフの青っぽさを7対2対1くらいの割合で展開させながら、パープル・グラデーションの落ち着いた香りが漂い続ける。シングルフローラル系統なので、とてもスッキリとしていて香り立ちはシンプルだ。バイオレットの香りを再現しているのは、イオノンや合成イリスなどだろう。大きく変化しないまま、6〜8時間ほど静かにたゆたう。
正直、このシンプルなアロマケミカルのコンボを思えば、価格はもう少し安くてもいいのではとも思う。特に、2013年に韓国資本となってからは、ボトルの簡素化、値上げ、さらに追い打ちをかけるように廃盤の嵐と、アニック・グタールじたいにいいニュースがなさすぎるので、なおさらだ。また、どうやら不定期に販売されているらしく、限定販売なのか通常販売なのかはっきりしない点も残念だ。現在はまた入手が難しくなっている。せめていつでもどこでも入手できるようにしつつ,値段も手頃にしてほしい1本だ。なぜなら、この香りはとても貴重で、時々どうしてもこれでなければならない時があるからだ。
それは、心が思いっきり滅入ってダウンしている時。そんなとき、これほど静かに、ゆっくりと心に沁みてくる香りはなかなかない。自分にとって、本当にかけがえのない香りだ。
人は元気が出ないとき、つらいとき、悲しくてやりきれないとき、顔がうつむき、呼吸が浅くなる。瞼が重くなり、心の窓も曇る。脳と体はリンクしているからイライラして疲れやすくなり、身体がズシリと重くなって何もしたくなくなる。肌はボロボロ、内臓の働きは悪くなり、ホルモンの分泌も異常をきたす。そして、夜に眠れなくなる。
そんなとき、ラ・ヴィオレットは、本当に効く。訳が分からず涙がこぼれるようなぐちゃぐちゃな心の隣で、静かに、静かに、ただそばに一緒にいてくれる。
嘘だ、たかがフレグランスにそんな効果があるわけない。そう思われても仕方ない。そして、ラ・ヴィオレットが、誰にとってもそんな香りであるとは言えない。それもそのとおりだ。けれど自分には薬以上に効いたのだ。この香りがトランキライザー代わりだった時期があった。その事実は自分の中で真実だ。そんな香りを一つでも見つけられた人は、本当に救われる。香りは、ときに人の心を確実に救うことがある。
夕暮れの町に一人。紫色の闇が刻々と色を変えるとき。春の宵は静かに深く、人の心を孤独に染めていく。別れも出会いも、本当はどちらも同じくらい重たくてきついものだ。だから、春はどこまでも心にくる。どうしようもなく心に紫色の影を落とす。
そんなとき、ラ・ヴィオレットは、一本の冬枯れの木のシルエットのように自分の前に立っている。黒く、魔女の手のような枝々を夕闇の空いっぱいに広げ、裸のままたたずんでいる。葉も花も実も、全てを失ってこんな姿になっても、それでもまだ空を引っ掻き続けるのだと、細い枝々を空に伸ばし、新芽の爆弾が破裂して葉が生まれ出づる時を虎視眈々と狙ってふんばっている。どこまでも虚空にその手を広げて。何も言わず、紫の雲の前で。
人ごみに流されて、変わっていく私を
ラ・ヴィオレットは遠くで叱らない。ただそばにいてくれる。ただずっと、心に寄り添っていてくれる。
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