ラルチザン パフューム / ラペル トワ オードパルファン 口コミ

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クチコミ16件中 13件目を表示

doggyhonzawaさん
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7購入品

2014/8/5 14:57:32

アブラゼミが声高に狂想曲を奏でている。日差しは西に傾き始めている。渋滞の国道に車を入れながら、俺は少しイライラしている。何だってこんなに混んでいるんだ。一つ大きなため息をつく。

たまらない気持ちになって、エアコンを最大にする。コンソールから、「ラペル・トワ」を取り出し、左手首に吹き付ける。

ドライでスパイシーな香りが、車内の停滞を切り刻む。四川山椒のしびれるような辛み、やや苦みのあるキリリとしたジンの香りが、ささくれだった心にシンクロしていく。そうだ、冗談じゃない。俺は急いでるんだ。手当たり次第にナビ画面をタッチ操作する。その左手から、甘くふくよかな白い花のミドルノートに変化したラペル・トワの香りが広がり、車内の空気と、ぎすぎすした俺の心を浸食していく。

そういや「ため息をつく人間は、幸せになれない」って言われたのはいつだ?中学の頃かな。昔はしょっちゅう、ため息ばかりついてたな。

ステアリングに右手をかけながら、左手でほおづえをつく。手首のラペル・トワの香りが一層強くなり、内なる記憶の海へといざなう。

ああ、そうだ。いつも口をとがらせて、あまり笑わなくなっていた中学の頃だ。転校を繰り返し、その度に気持ちがすさんで、どこにいても一人だって感じるようになってたときだ・・。

最大にしたエアコンの音がうるさく感じた。風量を最少にした。少しずつ進んでいく車列は、田舎町の野辺送りのように静かな葬列だ。ガーデニアに酸味のあるハニーが混じり合い、甘酸っぱいフルーティーな香りになったラペル・トワが、絶えず鼻腔をくすぐる。真夏の水蜜桃のようにみずみずしく、とろけるような香りだ。知らず知らず、心の扉が開かれていく。

夏・・・、あの頃から、夏の夕暮れの匂いが好きだった。日中太陽に灼かれた全てのものの匂いが、冷えて空中で撹拌され、生あたたかくねっとりとした匂いになる夕刻。草木の青臭さに動物や昆虫の匂いがまじったような狂おしい匂い。そうだ、クローバーの香りもまじっていた、白花を散らした緑のじゅうたん、手当たり次第ひきちぎったクローバーの茎の生臭さ、覚えてる。花からは妖しい蜜の香りがした・・。

国道が広くなり、気がつくと車線も増えていた。ぽつりぽつりとテールランプに赤い光がともり始めている。ラペル・トワは、軽やかに甘く香っている。

メリーを散歩に連れて行っていた頃だ。夏の夕暮れになると、メリーはいつも散歩を心待ちにしていて、リードをつけたとたんにどんどん引っ張っていって。はは、しつけの悪いコリーだったな。臆病でよく吠えた、でも・・・。

メリーの属性は犬だったが、俺にとってはかけがえのない家族だった。いらだちと性欲だけで生きていた中学生の頃の、俺のただひとりの理解者だった。たそがれどき、クローバーがひしめき合う空地の野原に出ると、あいつは長い鼻先をクローバーの海につっこんで、ワサワサと音を立てて宝探しに没頭してたっけ。俺はただ暮れていく空を見つめながら、夏の匂いをかいでいた。夏の風に揺られていた・・・。

前の車が急に停まってぶつかりそうになる。強めにブレーキをふむ。そのせいだろうか、胸のあたりにもやもやがこみあげてくる。ラペル・トワの香りが、静かなぬくもりのある木の香りに変わりはじめる。ココナツ様のタヒチアン・ティアレに軽いムスクを加えたような残香、そこに優しいサンダルウッドとお香の香りが重なり、心に沁みわたっていく。

10年一緒に暮らした。最期はフィラリアで逝った。ある日家に帰ると、玄関をあけたとたん、家の中の空気が重いことに気付いた。居間に入ると、夕暮れなのに灯りもつけず、母と妹が大きな木箱を抱きかかえるようにして、何度も鼻水をすすっていた。

「メリー、死んじゃった・・」妹が言った。
「・・・ああ。」ムスッとしたまま答えた。俺は24歳になっていたが、家族の前ではまだまだ青臭いガキだった。
「メリーを花でいっぱいにして送ってあげたいから、お花を買ってきて。」母が言った。
「・・・ああ。」

口をへの字に曲げたまま、車に乗りこんだ。ドアをバタンとしめた。キーを差してエンジンをかけた。車を発進させた。その瞬間、顔がぐしゃぐしゃになった。ステアリングにしがみついて、子どもみたいに体中震わせて、大声を上げて泣いた。


たまらない気持ちになって、エアコンを切り、車の窓を開けた。

街の音がよみがえる。ヒグラシが涼やかな協奏曲を奏でている。夕暮れのあかね色が、ビルの黒いシルエットの彼方に消えかかっている。なつかしきものの輪郭が、眼前によみがえる。鼻の奥がつーんとする。景色がじわりとゆがむ。

覚えていて

ラペル・トワの香りが、かすかにささやいている。

  • 夕暮れの街 by doggyhonzawaさん
  • ラペル・トワ by doggyhonzawaさん
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