プラダ ビューティ / インフュージョン ドゥ プラダ マンダリン オーデパルファム 口コミ

アットコスメ > プラダ ビューティ > インフュージョン ドゥ プラダ マンダリン オーデパルファム > 口コミ一覧 > doggyhonzawaさんの口コミ

この商品は生産終了・またはリニューアルしました。
(ただし、一部店舗ではまだ販売されている場合があります。)

クチコミ

クチコミ4件中 3件目を表示

doggyhonzawaさん
doggyhonzawaさん500人以上のメンバーにお気に入り登録されています認証済

4購入品

2019/1/4 20:52:52

芥川龍之介の小説で最も好きなのは「蜜柑(みかん)」という短編だ。何をやってもイラついて、誰に対しても反発していた青い頃にこの小説を読んだとき、すさんだ心がほんのわずか救われたような気がしたのを昨日のことのように思い出す。

大正の頃の話だ。曇天の冬の日暮れに列車に乗りこんだ男は、鉛色の空と同じくらい鬱々した気分と苛立ちを抱えていて自分でももてあましていた。と、そんな彼の前に田舎育ちとおぼしき13才くらいの娘があたふたと乗りこんでくる。男はそのみすぼらしい姿や遠慮のない振る舞いに嫌悪を募らせ、さらに苛立ってゆく。しまいに蒸気機関車の黒煙やすすが車内に入りこむのも構わずトンネル内で窓を開ける少女に堪忍袋の緒が切れそうになったそのとき、トンネルを抜け出た光の世界で男は一瞬の光景に目を奪われる…。そういうストーリーだ。(←引っぱったら最後まで語れよ)

そんな「蜜柑」の情景を思い出したのは、ここずっとインフュージョン・ドゥ・プラダ・マンダリンの香りをつけていたからだ。プラダの香水にはさまざまなシリーズがあるが、インフュージョン系は天然香料のよさを前面に出した淡く柔らかい香りのラインという印象がある。キャンディなどの濃厚グルマン系とは対照的で、ジョー・マローンを意識したようにも感じる流れだ。その中でマンダリンは2018年夏、シリーズ9本目の香りとして登場して話題となった。

ではプラダのマンダリン、どんな香りかというと。

トップ、スプレーした瞬間、緑色のみかんの果皮の香りがシュワッと広がる。みかんの果皮を手でむいたときに飛散するリモネンの飛沫。あの爽やかでグリーンな苦みが心地よく再現されている。とてもナチュラルなみかんの果皮の香りだ。バレンシアオレンジでもなくビターオレンジでもない。緑色のみかん。

3分もせずにグリーンな苦味はうすれ、柔らかくほんのりとした甘さが広がってくる。とてもうっすらとしたオレンジ系の透明感&ジューシー。酸味の角がとれたつぶつぶみかんのみずみずしい香りが広がるミドル。

そしてこのプラダのマンダリンはここまでが最高だ。つけて15分まで。天然の精油をブレンドして、果皮を指で開いたときにスプラッシュするあの芳香を再現することにこだわったような香り。ややグリーンな爽やかさ&苦みからみかんの果肉の透明感あるジューシーへのすばやい変化。ハーブなどをブレンドせず、ひたすらみかんの果実が放つ香りに迫ろうとしているように思える。ミドル終了まで15分だ。そこまでの香りの変化が心地よいフレグランス。

15分もするとみかん系の香りは薄らいで、わずかに樹脂の温かみが感じられるラストに向かう。アンバーかなと思って確かめたらオポポナクスのようだ。温かみ、スパイシー、酸味、甘みを伴ったバルサミックな香料。とてもうっすらとしていて30分もするとかなり鼻を近づけないとわからない。やはりとても持続時間が短いEDPだ。それがデメリットかメリットかは人によるだろう。

みかんの香りと言えば、アトリエコロンのオレンジサングインがすぐに思い浮かぶが、2つをつけ比べしてみると、オレンジサングインのみかん香はこちらより人工的に感じてしまう反面、香りがかなり長く続くという特徴をもつ。プラダのマンダリンは時間こそ短いけれど、最初から最後まで柔らかく自然なみかんの香りがする。これも好きずきかと。

プラダのマンダリンは、調香師ダニエラ・アンドリエがもぎたてみかんの果皮を手で割ったときの爽快感をモチーフにしたとされている。つまりその一瞬のきらめく香りに心奪われて創った作品ということだろう。さながら芥川の「蜜柑」で、主人公の男が一瞬の蜜柑の情景に心奪われたように。

汽車がトンネルを抜けた。突然開けたまばゆい世界に男が目を細めた瞬間、窓から半身を乗り出した向かいの少女が窓の外に向かって何かを放り投げた。その先には踏切に並んだみすぼらしい身なりの幼な子たちがいた。その頭上に乱れ落ちるいくつものオレンジ色の球体が男の目に飛び込んだ。

それは蜜柑だった。

灰色の空、手を上げて蜜柑に歓声を上げる幼な子たち。少女が虚空に放ったのは先ほどからずっと大事に抱えていた風呂敷包みから取り出した蜜柑だった。その瞬間、男は悟った。一家の食い扶持を減らすために奉公に出された娘が、もう二度と会えない弟たちへ最後の贈り物を空から届けたことを。その切ない夕暮れの光景は男の心に焼き付いた。そのとき男は初めて、自身の疲労と倦怠、そして言いようのない退屈な人生をわずかに忘れたのだった…。

プラダのマンダリン。それは明るくて溌剌とした刹那のみかんスプラッシュ。鬱々とした心さえいっとき中和して爽やかな風を吹かせる、芥川的「蜜柑」の香りだ。

  • 蜜柑 by doggyhonzawaさん
  • インフュージョン・ド・プラダ・マンダリン by doggyhonzawaさん
使用した商品
  • 現品
  • 購入品

doggyhonzawaさんのクチコミをもっとみる

プラダ ビューティについて

メーカー関係者の皆様へ

より多くの方に商品やブランドの魅力を伝えるために、情報掲載を希望されるメーカー様はぜひこちらをご覧ください。詳細はこちら

インフュージョン ドゥ プラダ マンダリン オーデパルファムページの先頭へ