FUEGUIA１８３３ / ミシオーネス 口コミ

フエギア１８３３から２０１０年にリリースされたミシオーネスは、キンとしたレモンとシダーっぽいウッディが拮抗しあうスッキリした香りのパルファムだ。

こちらはフエギア１８３３のラインナップの中で、デスティノス・コレクションに位置づけられている。南米はパタゴニアの大自然や風土からインスパイアされた香りのシリーズ。ミシオーネスというネーミングも、アルゼンチンのミシオネス州からきている。

ミシオネス州といえば、何よりも有名なのが世界最大の滝といわれる「イグアスの滝」だ。ブラジルとアルゼンチンにまたがる広大なイグアス国立公園にあるこの滝は、幅４ｋｍにも達する絶壁の至る所からとてつもない量の水が流れ落ち、大小さまざまな瀑布が見られる。その数はゆうに２５０を超え、「悪魔の喉笛」と呼ばれる最大の滝は、最大落差が８０ｍ以上あるという。かつてアメリカのＴ・ルーズベルト夫妻がこの地を訪れた際、そのあまりのスケールの大きさに驚いた夫人が「ナイアガラがかわいそう」と言ったと伝えられているほど。

フエギア１８３３の創設者であり、調香師でもあるジュリアン・ペデルは、この壮大なイグアスの滝、そしてそれらを囲むミシオネス熱帯雨林の豊かさ、さらにはこの地でかつておきた先住民グアラニ族とイエズス会の宣教師たちとの対立と邂逅、そういったことを全て１つのフレグランスに織り込もうとしたようだ。それがミシオーネスという香り。

ミシオーネスをスプレーすると、まず感じられるのは杉の香ばしい香り、いわゆるシダーの香料だ。明らかに赤茶けた鉛筆の削りかすのような香りがスーッと漂う。同時に高いところでレモンのようなスッキリした明るい酸味が広がっているのを感じる。通常、シトラスが先に揮発するので目立つところだが、ここでは、シダー：シトラス＝６：４くらいの割合でウッディが強めに主張してくる。体温が低めのところにつけると、トップでわずかなスパイス香を感じることもある。クレジットによるとナツメグを挙げているが、ハンバーグに入れるあのナツメグの雰囲気は感じられない。それほどにウッディとシトラスが強く感じられるからだろうか。

５分後、トップの揮発が進むものの、かん高いシトラスっぽい香りはまだ残っていて不思議。通常のレモン香料というよりは、よくカーフレグランスにあるスカッシュ系の香りが続いているような印象。香りの変化もあまりないところから合成香料のように感じられる。

そして、フエギアのパルファムではこれもよくあることに、トップ〜ミドル〜ラストというピラミッド的な3段階変化は乏しい。特にミシオーネスの場合は、トップで感じたレモン＋ウッディの印象のまま、ずーっと付けたところで香り続ける。大体５時間ほど柔らかく。パルファムと打ってはいるけれど、どちらかというと他のメゾンのＥＤＰっぽい感じの濃度だ。

フエギアでは、最も長く残るノートをハイノートと位置づけていて、このミシオーネスの場合、ハイノートのイメージはインセンスとなっている。これって「お香」かな？かなり杉っぽいんだけどな？と思って調べてみたら、どうやらインセンスシダーという針葉樹があるらしい。実際ミシオネス州は、イグアスの滝の観光以外にシダーやインセンスシダーなどの針葉樹や各種広葉樹の伐採が重要な収入源となっているようだ。

ミシオーネスの香りをまとめてみると、最初のシトラススプラッシュがイグアスの滝の爆風のような水煙を表し、その「大いなる水」によってもたらされる熱帯雨林の樹木の香りをシダーで対比的に表しているという構成のようだ。香りとしては、バレードのブランシュに似たラムネ系やスカッシュ系のシトラス香がする。そこにシダーを強めに入れた感じのフレグランス。香料の種類は比較的シンプルな気がする。

イグアスの滝は、ジャングルの奥地に開けた絶景中の絶景とも言うべき場所。だが、この辺境の地を巡ってさえ、かつてスペインとポーランドが植民地としての覇権を争い、そこにイエズス会の布教活動も加わり、先住民の生活は常に時代に翻弄され続けたようだ。80年代にカンヌでパルムドールを受賞した「ミッション」という映画に、そのあたりが克明に描かれている。

ミシオネス州には今なおあらゆる文化と歴史が息づいている。ジュリアン・ペデルはそんなメッセージをミシオーネスに込めたのだろうか？たとえ世界最大の瀑布をもってしても、容易に水には流せないかの地の秘められた過去を。

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