セルジュ・ルタンス / ダンドゥレ 口コミ

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doggyhonzawaさん
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2018/12/29 18:19:56

乳歯が抜けたときのことはよく覚えている。今まで物を食べていた歯がぐらつき、世界もぐらついた。ぽろりと抜け落ちた歯は自分の物なのに全く見知らぬ物のようで、とても戸惑った。何より歯が抜けたあとの穴だ。そこに舌をあてたときの喪失感と血の味。あの生温かく柔らかい奇妙な感覚は子ども心にも痛烈な記憶として胸に刻まれた。

そんな「乳歯」という名前をつけたオードパルファムがある。セルジュルタンスから新たにリリースされたダンドゥレ(乳歯)という作品だ。ルタンスが作品やボトル、価格をリニューアルしたのは2018年。名香10作品が廃盤になるという衝撃的なニュースに愛香家たちは悲鳴を上げたが、ルタンスはそれでもどこ吹く風だったのだろう。銀座に店舗も構え、盤石の体制で遂にシン・ルタンスはやってきた。(←ゴジラか)

では、ノワールコレクションとして再編成された彼の作品群に、廃盤10本の代わりに投入されたシン作品、ダンドゥレとは一体どんな香りなのか?

トップ。一瞬カンファー。その後、酸味の強い爽やかな香りが広がる。まるで清潔なリネンウォーターの香り、CLEANの香水などによくある人工的でスカッシュ系の奇妙な爽やかさ。あるいはバイレードのブランシュに近い香りだ。リフレッシュタイプのルームスプレーのような変に明るいオープニング。これがルタンスの香水の開幕とは思えないイントロ。

3分後、下から出てきたのは調香師クリス・シェルドレイクお得意のインセンス香。キンとした酸味と冷たさは依然続いており、それらと相まって微妙な香りになる。とても金属っぽい堅さを感じる香り。これは人間という生身の生き物から発せられる匂いから最も遠い、硬質なマテリアルの匂いだと感じる。酸っぱさの強いメタリックノートがとても強く主張し、わずかなミルキーノート、そしてほんのり甘いフローラルノートと共に展開するミドル。本当にここまできても、これまでのルタンスの作品とは大きく印象が異なり、驚く。

この白いシーツにスプレーしたリネンウォーターのような爽やかなミドルがしばらく続く。これまでのルタンスの作品からするととても淡い香り立ちだし、長くは続かない。フローラルやウッディの強いベースがないせいだろう。体温高めの自分の肌では1時間ほどしかもたない。そしてそのまま終息。ラストは大きく変化せず、メタリックノートがアーモンドの苦みとクリーミーなインセンスを連れてフェードアウト。うーん、なんだろうこれは。

そう言えば近年のルタンスの作品は、「鉄の百合」「ベルリンの少女」などで、冷たくて金属的なファセットをわざと強調してきたようなところがあった。そしてそこから連想させるものは血だ。モロッコのスパイスや樹脂、ウッディに傾倒して他のブランドにはない濃厚なオリエンタル作品を出し続けたルタンスは、今やメタリックノートによる「血の香り」に固執しているようにも思えてならない。確かにこのダンドゥレの紹介文にも、ルタンス自身の次のような言葉があって話題になった。

「今、若い狼はミルクよりも血を求める。」

血液の匂いを香りで表現しようとすると、メタリックな酸味と塩味というファセットが考えられるだろう。クレジットを見るとこのEDPにはココナッツやアーモンドミルクの香料も含んでいるようだから「ミルクと血」を表現しようとしたのだろうか?ルタンスはさらに紹介文を続けている。

「ずっと愛した無垢なる私の一部、決して忘れない。」

乳歯の喪失、それは大人に近付くための通過儀礼。イノセントからの脱却。猛々しい若い狼となるべく犬歯をきたえ、自分の歯で肉を喰らい、より大きな声で世界に向かって吠えるための成長過程。そういった連想がとめどなくあふれる。

それでも。

この香りはどこかつかみどころがなさすぎる。失った10作品に思い入れが強かったせいももちろんある。10枚の大きな葉を落としてまで創りたかったのがこの香水なのかと思うと、どこか腑に落ちない。このくらいの香りならどんなブランドでも簡単にできそうな気がしてならない、そう感じるのは自分だけだろうか?

「乳歯」と名付けられた奇妙な香水。そこに込められたルタンスの思いは、香りとそこから思いめぐらす想像でしか迫れない。けれどいつまでたっても補完はできないだろう。彼の作品群は複雑に変わり続けている。そして今後も誰もが予想だにしない方向へ変わっていくだろう。彼は深い紫のゴシックな館の奥で黒い服に身を包み、彼に翻弄される世界や私たちを見て緑色の瞳を光らせ微笑み続けるのだ。

ダンドゥレ。それは清潔で冷たい金属的な香りによるイノセントな時代の抽象。ほのかなミルクの香りと鉄のような血の匂いの片鱗。もう戻れないあの頃の優しくもどかしい記憶。

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