トム フォード ビューティ / ロスト チェリー オード パルファム スプレィ 口コミ

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doggyhonzawaさん
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5購入品

2019/7/6 05:54:36

秘密。だれにも言えない秘密。大人が教えてくれなかった事実。大人になるために最も知りたかった事実。

快感。だれにも言えない快感。母のルージュをそっとひいた日の、何かいけないことをしてしているという甘美な記憶。あるいは女性の裸体に初めて硬直した少年の、絶対に親に知られてはいけないと感じた背徳の記憶。触れてはいけないところにさわったやましさ。

トム・フォードのロストチェリーは、そんな香りがする。

桜の香りがするトップは幼い日のノスタルジー。どこまでも甘美でキュートなチェリーシロップの香りが心を鷲掴みにして離さない。離れない。

次第に鼻腔の奥をツンと刺激するシニカルなアーモンドの苦みが訪れてミドル。ピュアなくせにギリギリするほど苦々しい。それは思春期の葛藤をフラッシュバックさせる香り。

ある日突然、胸をときめかせる人が現れたときの戸惑い、高揚感。鏡を見て自分の容姿に落ち込み、その顔をにらみ、変えられない顔に悲観し、せめてと思い髪をいじり、何度も髪を濡らしてはブローした日。ガラスのように壊れやすく、うすっぺらな自我に固執した思春期。青臭くて一人じゃ何もできないくせに大人にもなりきれず、不平不満を周囲にぶちまけ、毒づくことで己のレゾンデートルをわずかに保ち、自分も周囲も大嫌いで、自分の弱さを繕うために他者をあざ笑い、蹴落とし、心の中で全てを否定する。浅はかで脆弱な魂の彷徨。

けれどある日。そんな自分がなぜ生まれて来たのかを知る。どんなふうに命が紡がれてきたのかを知る。思いと肌を重ねることで言葉以上に感じ合えるものがあることを知る日が来る。信じ合えるもの、信じられないものの境界があること、快感と痛み、快楽と苦痛の狭間でスパイラルにのぼりつめる狂気があること、全ての生命の営みの輪の中に自分もいたこと、己の欲望に忠実に体が反応すること、そして心は身体の快楽に勝てないこと。それらを思い知る日が来る。人間の業。

ロストチェリーはそんな香りがする。

幼年期のチェリーの甘さ、思春期のアーモンドビター、そこに絡むシナモンの誘惑に身悶えし、ローストトンカの人肌の匂いに酔いしれてゆく。ラストに感じられるわずかなヴァニラは昨日までの自分との決別。ほろ苦く甘い、もう戻れない白い朝の追憶。

それは通過儀礼。大人になるための痛み。少年少女との決別。小さな世界の喪失。広大な世界への不安。自分の中のエロスに気付く日。異性を誘う自分の秘密の匂いを知る日。しっとりと濡れたシロップの誘惑に、あくなき生と性の悦びをかいま見る日。自分の価値が揺らぐ日。自分の武器に気付く日。

その日を夢見ていたわけではない。その日を待ち望んでいたわけではない。ただある種のノスタルジーと悲しみは、小さな頃からずっと自分の中にあった。父と結ばれたいのに、母と同化したいのに、どこか拒絶された単体として存在しているちっぽけで儚い自分。その理由を知った日。

汚れた血。純潔な血。自分の中の不道徳を知る日。自分の中の清らかさを思う日。それでも唇をきゅっと結んで髪をかき上げて、さも何事もなかったかのように風の中を歩く日。何かを捨てたようで、何かに見捨てられたようで、全てを知った気になって、この感じを知らなかった自分を深い海に沈める日。

すれ違いざま、オヤジどもがなぜ濁った眼で自分をじろじろ見るのか、なぜ電車の中で痴漢されるのか、なぜこのロストチェリーが2〜3時間しかもたないのに3.5万円もするのか、そしてなぜこれまでになく売れているのか。その秘密を知る日。それは性が媚薬だからだ。愛情同様、性に困窮している餓鬼亡者が世界中にあふれているからだ。

こうならなくてもよかった。知らなくても生きられた。けれど知ってしまった。もはや永遠に心を奪われ、性の呪縛に囚われ、甘美な悦びに身悶えし、ときに燃えさかる業火のように嫉妬で相手を焼き尽くす。それは諸悪の根源。心の足かせ。神の手から最も遠い場所にあるダーククリスタル。仮面をつけて微笑み、仮面の下で己の外道を飼いならし、雑踏の中、風を切って歩き始めるために失ったヴァージニティー。SEXは甘く、かぐわしく、どこまでも心をとらえるけれど、その快感と感動は一瞬。あとに残る寂莫とした思い、荒涼とした大地にただ一人残された孤独。それらと向き合うことをたたきつけられ、人は自分の中の獣を知る。それでもまた、自分だけのチェリーを探し求めてこの世界をさすらう。

天使のように甘く、悪魔のように苦々しい。少女のようにほほえましく、遊女のように猥雑に誘う。チェリーボムはかじられた。したたる果汁は大人味のダークブラッド。

その血を煮詰めた背徳の香り、ロストチェリー。

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