ズーロジスト / ライノセラス 口コミ

動物園に行って一番ゆっくり見たい動物は？と聞かれたら「サイ」と即答する。全身に鎧をまとったような巨大な体、硬そうな角、けれどどこか穏やかで優し気な瞳。できれば間近でいつまでも見ていたいと思う不思議な巨大動物だ。

そんなサイの名を冠した香水がある。カナダ在住の香水コレクター、ヴィクター・ウォンが2013年に立ち上げたパフュ―マリー「ズーロジスト（動物学者）」から出ている「ライノセラス（サイ）」だ。

「サイの香り？あの動物園にいるサイの？」そのとおり。ただサイそのものの体臭などを模した作品ではなく、サイのイメージから創られた香りだ。

日本では2018年、新宿と銀座で店舗展開しているノーズショップにお目見えして話題になった。ズーロジストのラグジュアリーなボトルのラベルには、それぞれの作品のモチーフである動物たちが肖像画風に描かれたイラストが飾られている。パンダ、ゾウ、ラクダなど、ラベルを見るだけで「どんな香りだろう？」と、とても興味をそそられる。自分自身、日本発売を待ち望んでいたブランドだ。

そんなズーロジストから、パンダ、ビーバーと共に最初にリリースされた３作品のひとつがライノセラス。ではどんな香りかというと。

随所に金ラインをほどこした美しいボトルからスプレーする。トップ。まず鼻腔を刺激するのは苦みの強い樹脂の香り。すぐさま追いかけてくるのはレザーの匂いだ。わずかに鼻をつくようなアニマリックな香料も感じられる。香水なのに塩っぽさも感じられてとても複雑なトップ。秒単位でふわりふわりと香料がさまざまな姿を見せる。樟脳っぽい透明な清涼感、シベットのような荒々しさ、灌木のブッシュや草地を思わせる青臭いグリーンノート、パインニードルの松ヤニっぽい香りなどが一気に押し寄せる。これはすごいオープニング。本当にサイっぽい。ウッディ系、アロマ系の香料を多く使用して、サイの硬く分厚い皮を表現しているかのようだ。気分は一気にアフリカな感じ。強烈。

やがて５分もするとアニマリックな感じや苦みの強い樹脂香は薄らぎ、この香水の本質であるレザー香がなめらかに主張してくるようになる。高級な革のバッグの匂いだ。スモーキーさはなく、香気を吸い込むと鼻の奥にスーッと抜けるアニス系独特の透明な清涼感がある。このブレンドによってトップの荒々しいイメージが一掃され、まるでエルメスやヴィトンのブティックに足をふみ入れたような高級感漂う革の匂いに変わってくる。このレザー＆アニス香はスッキリしていて心地よい。さっきのアフリカな感じの香料ストーミーはどこへ？と思うほど穏やかでユニセックスなミドル。ほんのり甘いゼラニウムの香りも見え隠れしていい感じに優しさも効いている。そしてこの清涼感あるウッディ調のミドルが６〜８時間ほど続いてクロージング。

ラストはあまり変化なくドライダウン。後半にいくほど、独特な苦みと酸味のウードが感じられるようになるし、ベチバーのじんわり響く土っぽさも分かるようになる。ああ、やはり大地と樹木の匂いだなあと感じるラスト。それでも高いところでレザーのスッキリした香りがずっと響いていて、印象としては大草原に心地よい風が吹き渡っているようなイメージ。

全体的にみると、ライノセラスは昨今見当たらなくなった重厚感のあるメンズな香りといった風情。特にトップの動物臭、草原の匂い、土の匂い、革の匂い、木の匂いのミックスは、「おー、これがサイの香りか！」という視点でみるとかなり挑戦的で面白い。ただし、そういう興味本位でこの香りを楽しむことと、自身にこの香りを付けるか？という問題は別。ミドル以降はとても穏やかなレザー香になるため男女問わず付けやすい感じはあるが、一貫してレザー＆ウッディの主張が強い香りなので、それ系が好きな人向けだ。自身のパーソナルフレグランスにするとなると、サイのイメージや重厚感はかえって足を引っ張るようにも感じる。特に女性はトップの香料爆発で「無理！」という人も多そう。そういう意味では香りが似合う人を選んでしまうタイプかもしれない。男性女性問わず、心も財布も余裕のある方が、仕立てのいいスーツの内側から柔らかく香らせていたら似合いそうな香り。

サイはその重厚な見た目とは裏腹に、穏やかで賢い動物だという。自身の縄張りを大切にし、常に水浴びや泥浴びをして体温を一定に保つ繊細な生き物だ。ズーロジストのライノセラスはそんなイメージをこの香りに投影したように思えるし、同時に「人もまたサイと同じ生身の生き物だよ」と暗に伝えているような気もして興味深い。

今度動物園に行くときは、手首にちょっとだけこの香りをつけてじっくりサイを眺めていたい。柵にゆったり頬杖をついて。立ちのぼるライノセラスの変化を楽しんで。

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