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クチコミ
これをつけると1997年のオックスフォード図書館が海を越え時を超えて、私のために出張してきてくれるらしい。だってボトルにしっかり書いてある。Oxford 1997って。
オックスフォード図書館は威厳のある古い建物。中にびっしり並んだ本棚は年季が入った深いマホガニー色で、50年以上前に出版された古い本も並んでいるとか。
さあオックスフォード図書館さんいらっしゃい。タイムマシーンに乗って私の元にやって来て。
シュッ!とひと吹き。
期待を裏切らない本棚の香り。古いけどよく手入れされて黒光りしているマホガニー、チェリーなどの高級木材で作ったアンティークの本棚。色々な香水を嗅いできて、木の香りにはそれぞれ個性があって一括りにできないなとつくづく思う。
何種類もの木の香りがブレンドされているみたい。それもそのはず、古い図書館は木の香りで溢れている。本棚、机、椅子、本だって元々は木だ。木々が奏でる香りのオーケストラはとてもノスタルジック。
それに混ざって僅かな刺激が。切ったばかりの木は独特の刺激がある匂いがするが、それとは違う。調べてみるとブラックペッパーが木の香りの奥でピリッとアクセントを効かせているようだ。
木とブラックペッパーとほとんど同時に乾いたバニラの香りが漂う。香水に可愛らしさを求める女の子が大好きな、明らかにグルマン系の甘ったるいものではなく、食べられるバニラと食べられないバニラの境界線上にあるバニラだ。
シングルノートなので最後まであまり香りの変化はないが、木とブラックペッパーがだんだん薄らぎ、食べられそうなバニラのほんのりとした自然な甘さだけ最後まで残る。
古本の匂いとバニラは何故か相性がいい。調べたら理由がわかった。古本にはバニラに含まれる化学化合物が含まれているようだ。しかもナッツに含まれている化合物も入っているとのこと。20年ものの自前の古本で検証。ページのフチが薄茶色に変色している立派な古本を開く。
確かに薄いドライなバニラ臭が。ナッツの可食部というよりはアーモンドの硬い殻の匂いもする。面白いことにノリを使っている背とページは違う匂いがする。本によっては和三盆に似た匂いのものもあった。
そういえば図書館にはよく通った。本が好きだし、課題を書くために調べ物をしたり、単に勉強をするために。ずっと通っていると大抵同じ場所に座ることになり、近くに座っている人と仲良くなることも。まわりを見てみるとかなりの確率で同じ曜日の同じ時間に同じ人がやってくる。
いつも近くに座って勉強している男の子が周りに聞こえないか気にしながらひそひそ話しかけてきた。同じ高校の隣のクラスの彼は私のクラスの女の子に一目惚れしたらしい。
「彼女は僕の太陽だ」
「ぶっ!」と思わず吹き出したら、「シーッ!声がでかい!」と咎められた。
彼女が付き合っている人がいるかどうか私に調べてきて欲しいと頼む。面倒くさいし、人の恋路に首を突っ込むのも好きではないので断ろうと思うと、彼がバッグの中からゴソゴソと何かを取り出してニッと笑った。
クッキーだ!しかも高級ブランドのラングドシャだ。
賄賂だ。私を餌付けする気だ。高校生にして私は汚職に手を染めるのか。いや、汚食?
誘惑に負けて要件を飲み、二人で個別包装のラングドシャを静かに開け、周りから見えないように本でバリケードを作ってほうばる。図書館でラングドシャを音を立てずに食べるのは至難の技だ。サクッと砕ける音を立てるのを避けるために、口に含んで溶けるのをひたすら待つ。美味しい。飴舐めてるみたいだけど。禁断のバニラエッセンスの香りが鼻をくすぐる。
翌日、私は諜報任務を遂行した。彼女には付き合っている人はいないと彼に伝えると、成功報酬としてクッキーを2個くれた。
ところがそのまた次の日、彼が彼女に気があることが学年中どころか先生まで知るところとなった。
当然私の犯行が疑われた。しかし彼の友人達が、誰からも聞いてないけど、彼女に話しかける時の彼の仕草は怪しい鳥の求愛行為にしか見えない、顔に大好きだって書いてあると証言してくれたので、私の無実は証明された。
ウィスパー インザ ライブラリーをつけるたびに図書館とクッキーの思い出が蘇る。彼の好意バレバレのトマトと張り合うほどの真っ赤な顔、どもる声、顔をつたう汗、「鳩か?」と思うくらい彼女の周りをグルグル回ったあげくの、もじもじした挙動不審な仕草とともに。
シングルノート: バニラ、ブラックペッパー、シダー、プレシャスウッド
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- モニター・プレゼント (提供元:Sephora (米国))
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