クチコミ
トップは炭酸飲料の缶を開けた時の小さな水の粒子が頬に弾け飛んでくるイメージ。ライムとアルコール入りスパークリングカクテル。その高級感はベルガモットから。草のような青臭い香りと共にバニラシュガーを叩いたような香りもする。
やがて昔懐かしい匂いが混ざってくる。資◯堂ホネケーキエメラルド、昭和のポマードと髪の毛をセットする男性用のジェル。ベルガモットとバニラとアルデハイドの組み合わせはどことなくフゼアっぽい。
追いかけるようにはっきりとグリーンな鈴蘭とパウダリーなヘリオトロープが。バニラの香りと混ざっていい香り。でも絶対口にしたくない化粧品っぽさ。
ん?.... いきなり金属の匂い。あれ?.... 消えた。匂いの元を辿る。
私の身体が何と化学反応したのか不明だが、金属臭が手首から出たり消えたりする。メタリークという名に恥じない金属っぷり。凄いな、液体金属だ。リキッドメタル、ターミネーターの世界。超合金のおもちゃになった気分。超合金(死語)って私が子供の頃男の子が夢中で集めていたマジンガーZ、コンバトラーVなど、今高値で売れるコレクターアイテムである。
ラストはトゥインキーの香り。それは10cmくらいの楕円形のスポンジにバニラクリームが入ったアメリカの超ジャンクフード。30年間腐らないなどの様々な都市伝説あり。でも全く安っぽくないのはミシュラン二つ星のパティシエが焼いた超高級トゥインキーだからか。この不思議なスパイシーな甘さはペルーバルサムらしい。
正午につけて翌日の朝まで香りが長持ち。柔らかいサンダルウッドとバニラが最後に残る。本物のバニラビーンズを使用した高級なソフトクリームのよう。
チグハグな調香だが何故か魅力があって、超個性的で似たものを見つけるのが難しい。それにしても一体誰に似合うんだろう?
嗅いでいるうちにある青年のことが心をよぎる。
彼はマンハッタンで70年代後半を過ごした。自分のやりたいことを探して幾つもの大学に入学しては退学することを繰り返す。そんなある日、セレブがこぞって出入りする伝説のディスコ、スタジオ54に友達が連れて行ってくれるという。マイケルジャクソン、アンディウォーホール、ダイアナロスなど有名人で溢れる伝説のディスコだ。思いっきりお洒落をして行った甲斐があって、オーナー自らの厳しい服装チェックをパスし、重いメタル縁のドアを開けて中に入った。
見たこともない華やかな世界。むせるほどの熱気と今まで嗅いだことのない香りの嵐。カクテルに入れるためにバーテンダーが絞るライム。男性のフゼアの香りの整髪料と香水。女性の白粉。アルデハイドを思わせるワクシーな口紅。着飾った彼女らから漂ってくるバニラやムスクのキツい香水。
ふと見ると素敵な男女が一緒に踊っている。今にもキスしそうなくらい近い距離で。見ているだけでドキドキして、目で追わずにいられない。その時彼は気づいてしまう。自分が見つめているのはフゼアの香りの方だと。
踊り疲れて外に出る。酔ったのか足元がふらつき、思わずドアにもたれかかった。冷たいメタルの尖った匂いに意識が持っていかれる。外には何台ものピカピカに磨かれたリムジンが待っていた。タクシー拾い競争に敗れて、一緒に来た友達と地下鉄で帰ることに。お腹が空いていてジャンクフードでいいから食べたいと思う。
スタジオ54があった当時の8番街は、昔から住んでいる地元の人しか行かない寂れた場所で、売春婦、麻薬の売人がたむろするほど危険だった。私は1990年に友達を訪ねて行ったが夜10時以降歩くのは怖かった。そんな場所柄飲食店は夜10時までに閉まる。ガソリンスタンドだけが開いていて、ポテトチップスを筆頭とするエンプティカロリーのお菓子と、いついれたかわからないコーヒーが置いてある。ディスコの朝帰りの若者達はそこで何か買って腹の足しにしていた。トゥインキーはボリュームがあるので結構人気があった記憶がある。彼もトゥインキーを食べてたかもしれない。
スタジオ54は2、3年で幕を閉じた。稼ぎすぎて国税局にガサ入れされ、脱税が発覚したのだ。憧れの場所が砂の城のように崩れ去った後、青年はついに大学を卒業し、クロエというブランドの一番簡単な使いっ走りのような仕事を得て一生懸命働いた。あのメタル縁の重いドアの向こうの煌びやかな世界に住むことを夢見て。
メタリークは青春のスタジオ54の香り。
彼の名は....
トム フォード。
トップノート: アルデハイド、ベルガモット、ピンクペッパー
ミドルノート: ホーソン、鈴蘭、ヘリオトロープ
ラストノート: アンブレットシード、ペルーバルサム、バニラ、サンダルウッド
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- サンプル・テスター
- モニター・プレゼント (提供元:Sephora(米国))