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「チョコレートの匂いがする香水」というカテゴリがある。そんなキーワードで検索すると、まず必ずと言っていいほど出てくるのが、モンタルのチョコレートグリーディー。こちらはミルクチョコウェハースみたいな香りとも言われるが、それ以上にガツンとビターなチョコレートの香りを感じたい場合は、フエギア1833のムスカラカカオがおすすめだ。
フエギア1833は、もともと南米パタゴニアの自然や歴史、文化へのリスペクトから生まれた香水ブランド。瞬く間に100種類を超える香水作品をリリースし、人気を博している。
中でもフェロモンと類似した分子構造をもつ「香りのない分子」を採用したというムスカラシリーズは、一人一人の肌本来の匂い分子を吸着することで揮発を促し、その人の肌の香りを引き立てるというアナウンスで注目されている。ほんのりウッディに香る人もいれば、柔らかなフローラル系の香りを醸し出す方もいるという。ちなみに自分の場合ムスカラはややくすんだウッディになる←昭和枯れすすき
そのムスカラに選りすぐりのカカオ香料をプラスした作品、それがムスカラカカオだ。かつては限定品であり、一部のフエギア沼な方がこぞって購入したレアな一品だったが、現在は通常ラインとして販売されている。人気があると見るやどんどん売り方を変えていくテンポの速さも、このブランドの特徴といっていいだろう。基本、攻めは強めだ。
2019年2月にリリースされた当時は、800sのカカオ豆からわずか1sしか採取できない貴重なカカオ香料を用いたこと、エクアドル産とメキシコ産のカカオにこだわってブレンドしたことなどで話題を呼んだ。
では、巷でビターチョコレートの香りと言われるムスカラカカオ、一体どんな香りなのか?
ムスカラカカオをプッシュする。ジュース色がロットを経るごとに濃くなっているように思うのは気のせいか。肌にのせるとその瞬間、ダークラムの冷たく芳醇な洋酒香が立ち上る。このへんショコアトルを思わせるイントロ。すぐさま、鼻にキュンとくるほどロースティーでドライなカカオの香りが立ち上がってくる。これは思いきり天然のカカオの香りだ。チョコレートというよりビターカカオ。ミルクのまろやかさも砂糖のカラメル香もない。ギリギリ苦い。発酵させ、丁寧にローストし続けたカカオ豆の黒く焦げた香り。
このカカオブレンドの香りには、幾つか特徴がある。まずは苦みの中にもフローラルなふくよかさが感じられる点だ。これは明治製菓の「産地別カカオで作ったチョコレートの風味」分析データによると、エクアドル産のカカオの特徴だ。また、高音部でコーヒーにも似た酸味と強い苦みが出ている。このあたりは、同ブランドの「チョコレート効果cacao 86%」のようなカカオ成分が高いチョコレートの香りに近いものがある。むろん本物のチョコやココアと比べると、ギリギリとビターで、大人向けなカカオ。これは本当にパワフルな苦みと渋みをもった黒いカカオの香水だ。
賦香率は高めで、付けてからゆうに7〜8時間は香りが続く。ムスカラシリーズは厳選した単一香料をムスカラと合わせるので、展開はシングルノートだ。したがって調香じたいはシンプル。だから次々に作品を出せるのだろう。調香技術よりも素材じたいのよさで勝負。フエギアの作品には全体的にそんな印象がある。
ただ
それにしても値段は高すぎないか?
このムスカラカカオ、100mlボトルを買うには68200円必要だ。なぜ50mlをやめたのだろう?むしろ10mlを出してほしいくらいなのに、と庶民はカカオ高配合のチョコをかじりながら思う。さすがに86%は苦い。ムスカラカカオの価格を思うと、つい心も苦みばしる。
口直しとばかりに少し甘いチョコレートも口に放り込んだ。お、エクアドル産のカカオ豆を使ってる明治の「ALMOND 香るカカオ」は酸味の感じがムスカラカカオに近いな。甘いし、アーモンドも香ばしい。対して「チョコレート効果72%」の方は、苦みは強いもののミルクの香りが少しあって、これはムスカラカカオにキロンボをのせた感じだな、などなど…。
いろいろなチョコレートの味と香りを比べながら、紀元前から人々の食を支えてきたカカオ豆に思いをはせる。「テオブロマ(神の食物)」と呼ばれ、珍重されてきたカカオ。その豊かな香りと味は、いつの時代も人々を魅了してきた。
気温が下がってくると、不意に思いっきりチョコレートの香りが恋しくなることがある。そんなときはカロリーを気にしながら我慢するよりも、ムスカラカカオを身体中にプッシュしてみるのも一興かもしれない。
黒くて 苦くて 心地いい。 神のカカオの香りに包まれて。
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