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「似て非なるもの」、その2つを類比・対比することにより、コントラストをより明確にし、各自のよさを際立たせる方法を対照法という。
シャネルのエゴイストと、エゴイスト・プラティナムをこの対照法で比較すると、とても興味深い。
エゴイストの香調は、ウッディ・オリエンタル。出だしの印象は、暗く、低く、重たく、スパイシーで、内省的で、やや陰鬱な部分が強い香水だ。これに対して、エゴイスト・プラティナムの基調は、フゼア・フレッシュ。出だしの印象は、明るく、かん高く、軽く、ハーバルで、外向的で、快活さが感じられる香水だ。
シャネルの調香師、ジャック・ポルジュの作品であるこの2つは、エゴイストが1990年発売。エゴイスト・プラティナムが1993年。どちらも、彼にとっては大変な出世作・代表作の名にふさわしいものになったが、それはこの正反対ともいうべき両極端な2つを出したことで、より完成された「1対の作品」として評価されたからこそであるように思う。
エゴイストは、トップ〜ミドルこそ、寡黙で、厳格で、荘重で、偏愛という壁を作っているように魅せるが、次第に、優しく、柔らかく、甘く、そして、温かいラストに向かって香りが上へと立ち上っていく。これに対して、エゴイスト・プラティナムは、トップ〜ミドルで、饒舌に、寛容に、軽快に、博愛というすそ野を広げているように魅せるが、次第に、冷淡に、硬く、渋く、そして、涼しげなラストに向かって香りが下がっていく。
時系列による展開の仕方にも、こんな真逆のような違いがある。よく計算されたものだ、そう感じる。
また、ジャック・ポルジュは、このエゴイストシリーズあたりから、酒の香りにも似た風味を前面に出してきているようにも思う。エゴイストのトップは、シャネル独特の拡散力の強いエタノールにのって、ふわりふわりと芳醇なブランデーやラムのような香りが鼻をくすぐる。これに対し、エゴイスト・プラティナムのトップには、華やかなシャンパンの香りや白ワインのようなキリッとした苦味があり、爽快に鼻に突き抜ける。この点に関して言うと、その後に作られたアリュール・オムにも、魅惑的な果実系リキュールの香りを意識したような風味が感じられるので、かなり意識的なものではないかと推察する。
月がない夜の闇はただただ暗い。星々の灯りすらどこか心もとない。しかし、真昼の月も同じだ。青空にうっすらと見えていても、その存在は薄く、はかなげだ。闇夜に月が煌々と輝くことで、闇の暗さは強く深く感じられ、月の灯りはただただ神々しく感じられる。2つの明暗のコントラストがあって、初めて、闇と月の存在がより明確に縁どられてくる。
え?月の対義語は、太陽じゃないかって?そうだねー。太陽とは思わないけれど、少なくとも闇は対義語ではない。けれど、それこそがエゴイストたるゆえん。夜は誰にとっても自由の羽を広げる時間だ。誰にも邪魔されない、邪魔させない、自分だけのひととき。俺は、このエゴイストの2本は、「自由な夜のための香り」だと、勝手に解釈している。
エゴイストの黒いキャップ。エゴイスト・プラティナムのメタリック・シルバーのキャップ。それらは、まるで、夜の闇と輝く月のコントラストだ。夜の闇にまぎれて安息の溜息をつくか、月の光を追いかけて切ない一夜限りの冒険に出るか。
さあ、今夜は、どちらの香りに身を任せよう?ゆっくりと濃密な夜の始まりに、ただ君を想いながら。
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