ゲラン / ジッキー 香水 口コミ

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doggyhonzawaさん
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6購入品

2015/2/1 17:02:33

「いい?前にも言ったと思うけど、二度とそういう話はしないで。いやだから。」

ジッキー、君は一体、なんて女だ。「とにかく私を尊重して!」とばかりに、テーブルを人差し指ではじきながら、ぼくに向かってそんなふうに言う。これまで会った誰とも違う。さっきまで大きな声で笑っていたかと思うと、急に真顔になって怒り出す。腕組みをしてカフェの外を見ている君の、突きだした唇のローズピンクが美しい。けれど、どんな言葉をかけたら君の機嫌が直るのか、ともすると今まで出会った高慢なパリジェンヌなんかよりずっと君は複雑で、いつもはたどたどしい英語で身ぶり手ぶりのエクスキューズをするぼくも、今日はさすがにかぶりを振ってうなだれてしまう。君はそんな変化に気付いたのか、突然、ぼくの目の前の皿に、イングリッシュ・マフィンを手づかみで置いた。

「・・・え?」
「好きなんでしょ?・・あたしのも、あげるわ。」
「・・ありがとう、ジッキー。」

そうだよ。好きなんだ。ジッキー、ぼくはそんな君に夢中なんだよ。でももう、ぼくたちには残された時間は少ない。2人で過ごした夏はあまりにも早すぎた。

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ジッキー、フランスに戻ってからのぼくは、半身を奪われたようなものさ。いつだって生きている実感が少ない。今さらながら、君の屈託のない笑顔と明るさ、そして何に対してもちょっとムキになってくってかかるところなんかが、どれだけぼくの生活に色を添えていたかをしみじみと感じている。パリは華やかな色と香りに満ちているのに、ぼくの心はテムズ河の上にあった、低くよどんだ灰色の空のままだ。

この頃ぼくは膨大な仕事のせいか、なかなか寝付けずに枕元にラベンダーを置くようになった。君は、「イングリッシュ・ラベンダーが最高よ」なんて言ってたけど、歴史的には英国のラベンダーは、ここフランスから渡ったものだ。でも君はそんなウンチクには耳も貸さず、英国庭園を散歩しながら、胸いっぱいにラベンダーの青い香りを吸って楽しんでいたね。ああ、あの瞬間がどれだけぼくらにとって至福の時だったか、今になってこの紫色の香りとともに思い返しているんだ。

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そして親愛なるジッキー、あれからもう30年近くがたった。季節は人を変え、そして街の色と香りも変える。君は今、どこでどんな風景を見ているんだろうか?

ぼくは近頃、一つの香りを作った。オヤジの代から守られてきた伝統的な製法を打ち破ってね。ああ、さんざんたたかれたよ、方々でね。でも、ぼくは確信している。新しい時代はもう来ているのだと。君が古き良き英国の伝統を重んじながら、それでも革新的な女性であったことも、今となってはぼくの香水作りにとても大きな影響を及ぼしていると思う。ぼくが作った最新の香りはこうだ。

イントロダクションは、「出会いの衝撃」。男と女が出会ったときの、感情の高まり、昂ぶり、そして、興味・関心を表す。相手に対するさまざまな期待や憶測、肉感的な誘因子、これらを苦みばしったシトラスのシャワー、そして、ラベンダー、ローズマリーのシャープな風と、オリスの根の力強さといった、重層的な香りのコントラストで表現したつもりだ。

香水の核となるミドルのテーマは、「信頼と愛情の表出」。出会って惹かれ合った2人が、互いの手札を少しずつ見せ合いながら、理解し合い、受け入れ合って紡がれていく絆のイメージ。それを、ラベンダーのもつしっとりとした落ち着き、ジャスミンのインドールの肉感的な匂い、そして、ほんのりと見え隠れするローズで淡い思いを表し、1つのラインに収束させていく。

そして、ラストは「忘れ得ぬ思い出」。離ればなれになった2人が、時と場所をこえても、互いに相手を慕い、かつてのあたたかな思い出に心をいやされるイメージだ。これまで天然成分からは抽出しづらかったトンカビーンのクマリン、そして高価なヴァニラを合成香料に置き換えて強く香らせることで、永く続く優しい甘さを引き出し、ベンゾインやオポポナクスの樹脂香を低音で響かせることで、穏やかに広がっていく温かい気持ちを表現した。

そしてぼくはこの最新の香りに、ジッキー、君の名前を付けようと思っている。

「メルシー、ムッシュー!」
君はあの頃のように、片目をつぶって、笑ってそう言うだろうか?そしたらぼくは、最大級の愛情と敬意をこめて、君にこう言うんだ。

“Thank YOU,too. Jicky!”



※このストーリーはフィクションです。たとえ俺の中で実存だとしても。

  • ラベンダーの花 by doggyhonzawaさん
  • ゲラン ジッキー オードトワレ by doggyhonzawaさん
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