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クチコミ
ゲランのアプレロンデは、パウダリーな雰囲気をまとった紫色の美しい香りだ。1906年に天才調香師ジャック・ゲランが作ったこの静かな香りは、110年以上の時を経てなお、いまだにファンを増やしている。これまで数えきれないほどの香りがこの世界に生まれ、そして静かに消えていった。ではなぜアプレロンデは残り、今なお愛され続けているのだろうか?
その一番の理由は、人がこのオードトワレに、透明水彩画のような情景と美しい色彩の変化を感じて惹かれるからではないかと考える。
アプレロンデ、「驟雨(しゅうう)のあと」。にわか雨が通り過ぎた雨上がりといった意味だ。この香りは、つけた人自身が思い思いにその情景を感じ取れるような構成で作られている。ムンとする低気圧の気配。突然暗くなった空から降りだす夕立、そして雨が過ぎ去ったあと、次第に光に照らされていく庭園の草木や花々のみずみずしい様子。その姿を香りの移り変わりで表現している。
それは色彩の変化についても同様だ。低く垂れこめた暗灰色の雲。白ぬけした彼方の空。乾いた地面と窓枠をたたき、紫に煙る雨。濡れた草原に咲くスミレの紫、水滴をしたたらせる葉の緑。雨に揺れて花から拡散した黄色い花粉の雫。香りが五官を揺さぶるというのは、このような香りを言うのかも知れない。
そんなアプレロンデの香りは。
ボトルからスプレーすると、わずかな柑橘のあと、暗い甘さが広がり、一瞬、ほこりっぽいような匂いが漂う。これは、漢方薬の甘さを思わせるアニスの香りと、アイリスルートのパウダリーだ。そしてすぐ、その下からほんのりスパイシーな香りが出てくる。それはカーネーションノートを思わせるクローブの香りだ。火をつけるとパチパチとはじけ、甘くしびれる香りをくゆらせるクローブ入りタバコの香り。これらがふわふわと移り変わり、さながら曇り空と、湿度の高まった暗い部屋を思わせるトップ。
やがて10分ほどでクローブの気配は消え、下から顔をのぞかせてくるのは、紫色の花の香りだ。それは控えめでややメランコリックなスミレの香り。そして同じくらいの音量で主張しているのが、澱粉のような粉っぽい香り。埃っぽさはなくなり、次第にドライで温かみのあるパウダリーになってくるので、アイリスからヘリオトロピンにバトンが渡されたことを知る。ヘリオトロピンは、ややツンとしたアーモンドの雰囲気をもったパウダリー香だ。そこに、黄色い花粉のような甘苦しい香りが混じってくる。少し貼布剤風の清涼感(サリチル酸メチルの匂い)を伴っているので、ミモザの香りに似たカッシーの香りのようだ。カッシーの花は、ミモザ、バイオレット、そしてパウダリーな雰囲気を持ち合わせているという。アプレロンデの構成からすると、各香料をつなぐための重要な橋渡しをしているようだ。
ラストは、スミレの香りをほんのり残しつつ、黄色い花粉のような香りとパウダリーなヘリオトロピンのまま、消失していく。ヴァニラやベンゾインもクレジットされているようだが、かぎ分けられるほどではない。
オードトワレではあるが、全体に主張は弱めで、ミドルのバイオレット&アイリスが心地よく感じる時間は1〜2時間と短い。その儚さをどうとらえるかだ。ハンカチなどにスプレーすると、スミレの香りがきれいに出るので、バイオレットファンにはそんな使い方もおすすめだ。同じスミレの香りなら、アニック・グタールのラ・ヴィオレットの方がより強く主張するものの、香りじたいはシングルノートっぽく、変化の面白さは感じにくい。
アプレロンデは、穏やかで少しだけ感傷的な香りだ。四季を問わず、どんよりとした曇りの日、雨が降っているとき、雨上がりの静けさに包まれているときなどに、つい寄り添いたくなるような。思えば人生、そんなグレイな日の方が多いもの。どこかノスタルジーを感じさせるアプレロンデは、そんな日に似つかわしい香りだ。
通り雨が過ぎる。外へ出ると、ミストになった無数の水の粒が、庭の輪郭をぼかすように、そこかしこに漂っている。雲間から斜めに切り込んできたまばゆい日差しが、少しずつ灰色のベールをめくって真実の色彩を取り戻していく。光の玉をのせた緑の葉の間を歩き始める。可憐なスミレの紫。木々の枝からしたたる水滴。ゆるやかに雲が流れ、次第に光が満ちあふれていく。その刹那、輝き始めた空にそれを見つける。
光の屈折で空に浮かんだアルカンシェル。アプレロンデの虹の架け橋。
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