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2003年、ニューヨークの街がもつエネルギーと、そこに住む人々のダイナミズムを香りで表現すべく立ち上げられたブランド、それがボンド・ナンバーナインだ。創業者であるフランス人女性、ローリス・ラメは、2001年の悲劇以降、自身が長年暮らしてきたNYへの愛を形にする方法として、美しい香りでストリートを満たすことを願い、たくさんの調香師に自由な創作を依頼してきた。
偉大なる調香師ジャン・ギシャール。その息子であり、ジボダン調香学校の教え子でもあるオレリアン・ギシャールが選んだのは、NYのチャイナタウンというモチーフ。ニューヨークはマンハッタン地区のチャイナタウンが有名だが、実際には他にもいくつかチャイナタウンと呼ばれる地域があるようだ。中国系移民が数多く暮らす漢字看板が雑然と並ぶその界隈は、歴史も古いせいか建物もどこか古びた印象が強い。街そのものの匂いというのではなく、チャイナタウンという言葉から自由に連想を広げたオレリアンの描く美しい東洋の香り。それがボンド・ナンバーナインのチャイナタウンだ。
特異な星型&人型ボトルのキャップを外してスプレーし、チャイナタウンのトップをゆっくりと味わう。はじめにすっと鼻に届くのは、クリーミーなヴェールがかかったフルーティーな花の香りだ。ハチミツの甘さと桃の香り。まるでミルクの中にそれらを浸したような柔らかでしっとりした香りが鼻腔をくすぐる。トップはそんなまろやかな香りが3分ほど続く。
やがてその奥から独特のスパイシーな香りが感じられるようになるとミドル。それはとてもわずかだが、土っぽいようなシャープな香り。調べるまでわからなかったが、パチュリやウッディ系のようだ。このバランスがとてもデリケート。クリーミーで甘い桃っぽいようなフルーティフローラルを9とすると、ウッディっぽさは1。木や土っぽさが主張しすぎないようにしている感じがする。そしてこのミックスがとても長く続く。朝つけると、夕方までゆったりふんわりと香っているような。時間にして6〜8時間。香り立ちは穏やかだが、とても長く肌に残っている印象だ。
ラストは大きな変化を感じさせず、静かにミドルのまま減衰していく。調べてみるとベースにはパチュリやカルダモン、サンダルウッドやガヤックウッドがクレジットされているようだが、ほとんどそれらは感じとれない。代わりにややココナツっぽいヴァニラが、最後までフルーティフローラルを包むように流れているように思う。それは、ココナッツファインをまぶした中華料理のデザート、ココナツボールのような香りでもあり、ふっくら蒸し上がった小籠包から立ちのぼる少し甘い皮の香りのようでもあったりする。
全体的に見ると、桃のようなフルーティーな香りにチュベローズやピオニーが華を添え、ヴァニラやハニー、ミルキーノートがそれらをまろやかにくるんでいる、そんな美味しそうで可愛らしい香りの印象。ボトルに描かれた可憐な花の雰囲気そのままといった感じ。通りの端々からすえた匂いがしそうな、古びたマンハッタンのチャイナタウンの雰囲気とはほぼ別物。そこは完全に分けて考えた方が無難。ガーデニア、パチュリ、ヴァニラのアコードからオリエンタル・シプレー系(オークモスはないけれど)とも言え、同アコードから成るグッチのラッシュ(1999)にインスパイアされた点があるかもしれない。美味しそうな甘さ、しっとりしたフローラル、ミルキーノート。グルマン系のようでもあり、どこかミルクデザートを思わせる香りで、秋〜冬についつい心がとらわれるようなフレグランスだ。
中華街の店内。胡弓のノスタルジックな音楽が低く流れている。それは心の柔らかな部分をなめらかに揺らす。テーブルにはコース料理の最後をしめくくる、マンゴーをあしらったココナツミルクのデザートが運ばれてくる。スプーンですくったその白いプルプルは、口の中でふんわりとした花の蜜のような甘さを広げてとけていく。
その一瞬、通りを行き交う人々の雑踏が止まる。秋の陽が黄金色の光を窓辺に集めている。ミルキーな桃のようなチャイナタウンの香りが、胡弓の調べとともに心に沁みこんでゆく。
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