ザ・ディファレント・カンパニー / オスマンチュスオードトワレ 口コミ

港の見える丘公園から、山手イタリア山庭園まで。いわゆるお決まりの横浜山手の散策コース。外国人墓地を横目に眺めながら、緑が美しく重なる元町公園へと進んでいくと、やがて右手に、瀟洒なエリスマン邸が見えてくる。

ディファレント・カンパニーのオスマンチュスをつけると、いつもそんな横浜の山手の風景が眼前によみがえる。それは、初めて横浜を訪れた秋に、そこかしこで、濃厚なかぐわしい金木犀の香りが漂っていたからだ。

この香りは何の花だろう？１０月の山手をそぞろ歩きしながら、その芳香に魅せられ、たどった先で見つけたのは、美しいオレンジの小さな花々だった。それが、オスマントゥス＝金木犀。（ディファレント・カンパニーでは、オスマンチュスと表記）そうか、これが生の金木犀か。寒い地方に住んでいる自分の生活には、とんと縁のなかった花だった。日本に入っている金木犀は、正確には、丹桂木犀と呼ばれるオレンジ色の濃い種だという。芳香が最も強く、かつては厠（かわや）のそばに植えられ、その強い香りで悪臭をさえぎるための花としても有名だった。

ディファレント・カンパニーを興した調香師ジャン・クロード・エレナは、以前エルメスで、やはり同じように金木犀の香りをテーマにした「オスマンサス・ユンナン」を手がけている。これは、彼が中国の紫禁城を訪れた際に、どこからともなく漂う美しい花の香りに導かれ、その香りのもとをたどって城内を散策したときに見つけた金木犀との出会いの感動を再現したものだと言われている。

ただ、どちらかというとオスマンサス・ユンナンは、オレンジ系やお茶の香りをミックスしているところから、桂花茶＆ユンナン茶っぽい香りといった印象があって、それに比べると、こちらは、「より金木犀の花っぽさ」を出そうとした感じのように思う。そういう意味で、この作品では、生花の香りを忠実に再現するというディファレント（違い）に迫ったというところだろう。

もともと金木犀の香りは、合成香料を用いると、安価で比較的簡単に似ている香りが作れるが、いざ生花から精油を抽出しようとすると、かなり変質しやすいため、元の香りと異なってしまう性質をもっているようだ。そのため、生花のエッセンスからは、花が咲いているときの香りを再現しにくいそうだ。中国のお酒に、「桂花陳酒（ケイカチンチュウ）」という、白ワインに金木犀の花を漬けた甘い酒があるが、その香りも確かに、生花の金木犀とは異なる感じがする。

だとすれば、ジャン・クロード・エレナは、「高価で香りが変質しやすい金木犀のエッセンスをあえて用いて、他の香料で補完しながら、生花に近い香りを再現する」という創作に挑戦したというところか。もしそうならば、とても手のこんだ作業をしたことになる。時間や香料の制約を限りなく取り払った、自身のブランドだからこそできたこだわりではあったにしても。

で、肝心の香りはというと。

トップ。すっきりとしたベルガモットの酸味と苦みが立ちのぼる。そして同時にその下から白いフローラルの香り。ほんの少し汗や尿っぽい酸味を伴ったジャスミン。ところが、この２つが混合して、なぜか安いビニール製品のような、つんとした匂いとして感じられる。このイントロはあまり好きではない。出だしが奇妙、というのは名香にはよくあることだけど、ほんと昭和の石油化学製品っぽい匂いに感じられてしまってごめんなさいだ。特に、「オスマンチュス＝金木犀」というイメージ先行で初めてつける方は、トップの違和感をより強く感じるかも知れない。ここがこの作品の好き嫌いのわかれどころかなという気はする。

ただ５分もすると、酸味やベルガモットの苦みが薄れてきて、穏やかながら、アプリコットのような独特の金木犀の香りが出てくる。このへんからは好きな感じだ。ローズやゼラニウム系のちょっとスッキリめフローラルが、生花のエッセンスの弱さを後ろで支えているように感じられる。角がとれて柔らかく、それこそオレンジ色の美しい香りがそのまま表現されたかなと思う瞬間がときどきある。そしてそのまま減衰していく感じ。ただどこまでも、ジャスミンとのミックスという印象は残る。

オスマンチュスを手首にのせて、久しぶりに横浜を歩いた。まるでタイムスリップしたかのように、初めて訪れた日の記憶が、香りとともによみがえる。

夕暮れの街が金木犀の色に染まっている。オスマンチュスの香りが、懐かしい風景を眼前にトレースしている。

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